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90年代初頭のシューゲイザームーヴメントの中心で艶やかに咲いた花、Lush。ヴォーカルギターとしてバンドの前線で演奏していた二人の女性は、その美しい容姿でも注目が集まり、いわばシューゲイザームーブメントのアイドルとも言うべき存在でした。なんでも、ハンガリー人と日本人のハーフのMiki Berenyi(ミキ・バーニー、Vo/G)と、Emma Anderson(エマ・アンダーソン、Vo/G)の二人は人気を二分していたようで、日本では「ミキちゃん」「エマちゃん」の愛称で親しまれていたとか。

4ADからデビューすることとなったLushは、そのレーベルの方向性を継承。Cocteau Twinsフォロワーとも言える、艶かしい世界観を構築していきました。以降は作品を出すにつれ初期の面影を無くしていき、過激なロック姉ちゃんと化した「ミキちゃん」ですが、相変わらずその容姿は美しかったということです。ところが90年代中期に入ると、シューゲイザーに括られたLushにとって肩身が狭い時期となり、96年に解散。美しい花は短命とはよく言ったものです。

Discography

1990
Gala compilation
1992
Spooky 1st
1994
Split 2nd
1996
Lovelife 3rd

Spooky
Spooky
1.Stray
2.Nothing Natural
3.Tiny Smiles
4.Covert
5.Ocean
6.For Love
7.Superblast!
8.Untogether
9.Fantasy
10.Take
11.Laura
12.Monochrome
92年発表
 Lushの1stアルバム。バンド初のオリジナルアルバムとなった作品で、同時にシューゲイザーというジャンルにおける代表作のひとつ。本作の妖艶なサウンドを聴くとどうしてもコクトーツインズの名前を出したくなるが、同じ4ADというレーベルで且つ、彼らによるプロデュースであるということからも、このバンドはコクトーツインズの純粋なフォロワーであると言うことができる。天に高く舞いすぎたコクトーのサウンドを継承しつつ、ギターを掻き鳴らして作り出した音の壁が辺りの景色を飲み込む、独自のサウンドを展開。…まさに時代を象徴するサウンドを鳴らしていたバンドだったのである。

 まるで氷の城でも組み立てているかのように冷たい質感のサウンドは、常に危うい美しさを放っている。ギターのメロディは、クリスタルのように輝いており、透き通っている。そして何よりも、女性のツインヴォーカルのセンスが光っている。世界を悲観するように歌い、コーラスするヴォーカルは、まるで一国の皇女が天を仰いで泣いているようにも聞こえてくる。それほどに細くて耽美な歌声は、エリザベス・フレイザーを彷彿とさせ、高貴な雰囲気を醸し出すには十分だった。そして流麗なメロディの後ろで、耳鳴りのするほど激しく掻き鳴らされたギターサウンドが楽曲に違和感なく被さり、それによってリスナーは最高のカタルシスを得ることができる。

 他のシューゲイザーバンドと比べると、"妖艶"一辺倒で覆い尽くされた感のある本作だが、舞い散る花のような女性ヴォーカルと、広がりのある冷たいメロディを中心に構成されたサウンドは、意外にもこのジャンルの特徴をよく表しているように思う。そのため、シューゲイザーの隠れた魅力を引き出した作品とも言え、以降のバンドへの影響力も容易に想像できるアルバムである。