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 My Bloody ValentineRideと並び、シューゲイザームーブメントにおける代表的なバンドの一つ。91年にリリースした「Whirlpool」には高い評価が下されており、バンド及びシューゲイザーの代表作として必ずその名が挙げられる程の名作となっている。とはいえその後の彼らも時代の流れには逆らえず、わずか2枚の作品を残し、ブームの終わりとともに姿を消した。

Discography

1991
Whirlpool 1st
1993
Blood Music 2nd

Whirlpool
Whirlpool
1.Breather
2.Pearl
3.Autosleeper
4.Treasure
5.Falling Down
6.April
7.Guilt
8.If You Want Me
9.Something More
91年発表
 シューゲイザーシーンにその名を大きく刻みこんだChapterhouseの1stアルバム。91年のムーブメント全盛期にリリースされ、RideやSlowdive、MBVらと共にブームを作り上げた大傑作。SlowdiveのRachel Goswellがコーラスで参加しているAは、このジャンルにおいては有名な曲であり、これだけでも本作を聴く価値があるだろう。しかし、この作品はそれだけを語るためにあるのではない。むしろ本作のすべてのトラックにバンドの魅力がちりばめられているといっても過言ではなく、一点の隙も見せないそれぞれの楽曲に圧倒される。

 深い霧で辺りを覆うように響き渡るギターノイズの心地良さと、繊細で儚いヴォーカルがもたらす、夢中をふわふわと漂うような恍惚感。特にギターノイズの質感の優しさは他のバンドと比べると随一と言えるほどであり、非常に気持ち良いものであった。加えて、ダンサブルで芯の太いビートを軸にしたことで、マッドチェスターの影響を色濃く感じさせているのもバンドの特徴の一つに挙げられる。それらのサウンドは次第に脳内を侵食していき、何度もその心地よさを味わいたくなっていく・・・、とても中毒性の高い作品。

 正直、他のバンドと比べるとインパクトに欠けていた気がしたため(特に中盤)、購入当初は印象の薄い作品だった。しかし何回も聴くうち、徐々にこの作品のサウンドの魅力に気づきながら虜になっていき、今ではMBVやRide以上に素晴らしさを感じている作品である。焦燥感全快の疾走ナンバー@Fや、マッドチェスターど真ん中のD。深い霧のようなギターに包みこまれるCEなど、どれも荒々しさを感じさせつつも優しい音色とヴォーカルが寄り添う、至高の名曲ばかり。ちなみに06年の再発盤には、7曲のボーナストラックに加え、ブックレットがボリュームアップしたとのことなのでこれから手に入れるならばそちらがお勧めです。
Blood Music
Blood Music
1.Don't Look Now
2.There's Still Life
3.We Are the Beautiful
4.Summer's Gone
5.Everytime
6.Deli
7.On The Way to Fly
8.She's a Vision
9.Greater Power
10.Confusion Trip
11.Love Forever
93年発表
 Chapterhouseの2ndアルバム。このアルバムを発表後、間もなく解散してしまったが、その原因はシューゲイザーシーンにどっぷりと漬かってしまっていたからだろうか。本作でサウンドの軸をずらし、新境地を図りはしたが、チャプターハウスのように極端なジャンル分けをされたバンドは、そのイメージを払拭するのが難しい。もっとも、憂いがあって美意識に則ったセンスの良さは本作でも健在だが。

 脳にズシリと響くドラムとベースに加え、ザクザクと切り刻む大胆なギターサウンドがとりいれられたことで前作との印象の違いがだいぶ出たように思える。前作のシュワシュワーとした甘いギター音が終始鳴り響いて夢見心地になるのとはまた違う音。全体を通して極力ギターサウンドの比率が抑えられつつも力強さが増しており、マッドチェスター(またはギターロックバンド)としての色が濃くなっている。BGあたりはまさにそれだろう。ヴォーカルは相変わらずコーラスしながら囁くように歌っているが、前作に負けず劣らずの美しさを放っている。前作ではぼやけていた音の境界線が本作では明るみになり、彼らは夢の中の世界(1st)から橙色の秋空の下(2nd)に姿を現した。…というのが私の勝手なイメージである。

 シングルカットされたBは、まさにバンドの変化が見て(聴いて?)取れる楽曲なので、この曲の試聴をお勧めしたい。名曲と名高いJは独特の甘美さを持っているのに加え、同じフレーズを繰り返す後半に女性コーラスが入ってくるのが絶妙すぎ。憂いを帯びたCも美しくて好印象。このアルバムに対する世間の評価は散々だったようだが、そこまで足蹴りにするほど酷いモノではないのは作品を聴けば明らかである。前作を踏襲しつつも、バンドのチャレンジ精神を垣間見られる優秀作。時が過ぎた今だからこそ冷静に、客観的に評価できるのかもしれない。そういう意味では最近のシューゲイザー復興の動きも納得できるのである。